2012年12月27日木曜日

三十路のおっさん デリヘル奮闘記 ~始動編~




つんく : じゃあリンちゃん、事務所あがってこようか~!




午前4時。




つんくに似たその男は、黒い受話器に向かってそう話すと、気遣いのない力加減で受話器を置いた。

10畳程度の狭い事務所に留まること8時間。
男性で喫煙者4人が一斉にタバコを吸い出すと、火災報知器がさどうしてもおかしくないぐらい、部屋は煙でいっぱいになる。昭和の雀荘でもここまでひどくはないだろう。
おっさん自身も喫煙者ではあるが、こんなに自由に仕事中にタバコを吸える環境出会ったことは今まで経験にない。そんな環境に憧れたことはあったが、この分煙のご時世にはあってないと思い、自分で運営した会社は完全分煙にしていたが、この事務所にそんな概念は存在しないということは、入室して10分で理解できることであった。
尚、それまで外の空気は一度も吸っていない。

そのつんくに似た男は目の前に置かれた4台の電話機を駆使して、ドライバーと女の子に明確且つ簡潔に、小気味よいテンポで的確に指示を出し続けていた。

おっさんはその様子を8時間近く、ただただすることもなく眺めることしかできなかったわけだが、度々出てくる女の子の名前に想像をふくらませていたことを隠すことはできない。


そもそも、ここはデリバリーヘルス。紛れもない風俗店だ。おっさんの想像では、仕事のない女の子が待機しているものと思っていたが、この店はそうではないらしい。
べつに在籍している女の子と仲良くなろうとか、親密な関係になろうなどとは露程も思ってはいないが、単純に自分の働く店の女の子がどんな感じなのかという興味はもちろんだが、それ以上にそれまで客としてしか接することがなかった風俗嬢の本当の顔が見られるのである。


つまり、デリヘルの店で働くことになったのだが、ここまで在籍している女の子を直接見ていないのである。時間にして8時間といったところか。


ガチャ・・・



ドアが、開いた。



室内の暖かい空気と入れ違いに、コンクリートに冷やされた12月の冷気と一緒に、『リンちゃん』と呼ばれた女の子が入ってきた--------





そもそも、である。
なぜおっさんがデリヘルの店で働くことになったのか。





遡ること24時間前。






おっさんは焦っていた。








それは焦りまくっていた。









5年勤めて、それなりに偉そうな振る舞いができていた会社を辞め、儲かるからと言われた出会い系サイトの会社を立ち上げ、見事に儲からず1年持たずして廃業。


残ったお金で3ヶ月ほどニート生活を満喫していたが、それほど多くはない貯蓄は瞬く間に底が見え始め、夢のようなニート生活はまもなく終焉を迎えようとしていた。


ニート生活の終焉がいずれ遠からず訪れることはおっさん自身も薄々理解してはいたが、何も対策をとっていなかった。めんどくさかったからな。


このニート生活のあいだに、次の就職先をだらだらとネットで探してはいたのだ。次の就職先は福利厚生がしっかりしてて、ボーナスの出る会社がいいな~週休二日のところがいいな~できれば17時に帰れたら最高だよな~あと有給がちゃんと取れるところだったら尚いいよな~なんてのんきなことを考えながら探していたが、高校中退でロクなスキルのない30代を雇用するような優良企業が果たしてあるのかどうか。
そんな会社があれば、よほど寛容なのか、ただのブラック企業のどちらかだが、きっと後者であることは間違いないだろう。


とはいえ、まともな就職をしたところで、即日に金が入るわけではない。最初の給料は働き始めた翌月の給料日になることは目に見えているが今のおっさんにそんな余裕はない。ミスミじいさんには申し訳ないが、今のおっさんに必要なのは未来への希望をつなぐ種籾ではなく、目先のタバコ代なのだ。



(参考画像)

明日よりも今日を生きることを考えなければいけなくなる前に、当面の生活費を確保する必要がある。そうなると当然日払いもしくは週払いが可能なバイトということになる。

そこで【名古屋 バイト 日払い】などの条件で、必死に求人サイトをおっさんは巡回した。Googleの1ページ目に出てくるバイトの求人サイトはすべて目を通した。

お?ここいいじゃん!と思ったら、5年働いてやめた会社だったりした。バイトとして戻るなんてありえねーだろ・・・。

結局応募したのは、時給1300円で日払いOKのコールセンターであった。なんでもインターネット回線を電話にてご案内するだけの簡単なお仕事なのだとか。おそらく、5年働いた会社と同じ業種なのだろう。幸いネット回線の知識も、電話営業のスキルも経験もあるので、おっさんにはもってこいの仕事だろうし、こんな経験者なら採用間違いないだろうと思い、余裕綽々で面接に臨み、1週間後に連絡しますとのことだったが・・・。




連絡がない。




まさかの不採用。




もっとも、実際に「不採用」という連絡があったわけではないのだけれど、面接から10日も経過している。採用されなかったと見ていいだろう。

ネット回線のコールセンター経験があり、且つ対面接用に体裁を取り繕う技術に関しては人一倍秀でている自信があったので、この結果は少々受け入れがたいものではあったが、気落ちしている場合ではない。なにせまもなくメシも食えなくなるのだ。モヒカンにしてトゲ付き肩アーマーで略奪に走るという以外に選択肢がなくなる前にどうにか手を打つ必要がある。


(モヒカントゲ付き肩アーマーで略奪に走る人々の図)


そんなある日の午前4時。


3ヶ月に渡るガチニート生活のせいで完全に昼夜が逆転してしまっていたおっさんは、このままのニート生活はやばいということを頭の片隅に置きつつ、いかにしてこの部屋を居心地のよい環境にしていくかということに注力しており、その過程で発見したPS3でHULUを見るという悪魔のような手法を見つけ出し、過去に一度見終わったLOSTを全シーズン見直すという暴挙に出始めた。

結末を知っているドラマも全て見終わった頃、同時進行していたバイト探しに異変が見られた。


【名古屋 高収入 バイト】で検索をしていると、夜の仕事専用の求人サイトを発見したのだ。


それまでなんとなく、夜の仕事だけは避けるようにしていたが、よくよく考えてみればこの状況であればもうプライドもクソもない、夜の仕事でもいいんじゃないかと思えるようになっていた。

この状況というのは

1.昼夜が完全に逆転しており、通常の生活に戻すにはどこかで無理をしなければいけない

2.できるだけ早めにお金がいる

3.給料は多ければ多いほどいい


という状況の中で

▼完全に夜間の仕事で、明け方まで

▼日払い可能

▼来るものは拒まない業界

▼プライドを捨てる必要がある分、給料は悪くない


という条件だ。現在のおっさんの生活と置かれている状況にはこれ以上ない条件である。なぜ今までこのことに気がつかなかったのか後悔したほどである。

こうなれば膳は急げ。早速電話をして面接を取り付けるほかない。


とはいえ、だ。



ここで急いては事を仕損じる。



これまでの人生で安易に仕事を選んで損をしたことは少なくない。とりあえず当面の生活費をなんとかしたいので、日払いのアルバイトでお願いしたいところだ。うっかり社員になって陽のあたる社会への帰還ができなくなってしまっては本末転倒だ。まっとうな会社への就職を視野に入れて、当面の生活費を稼ぎ、3ヶ月程度在籍して生活をある程度安定させた上での社会復帰。なので、当面の職に就くためのスピードはもちろん重要だが、ここは厳選する必要がある。

この求人広告も、ざっと目を通してみるとよく似た文言の求人ばかりである。系列の会社なのだろうかとも考えたが、そんなことは今はどうでもいいことだ。似たような文言は多いが、その中でも明確にアルバイトと記載されている会社にしておかないと離脱が難しくなるだろう。とりあえずはアルバイトと明記してある会社が1件だけある。もはや迷うことはなにもなかった。

電話をかけてみる。


おっさん: すいません、求人を見てお電話しているんですが・・・

 相手 : ああ!はい、ありがとうございます!いつ面接しましょう?

おっさん: わたしは(ニートなので)いつでも結構です。そちらのご都合の良い日時で構いません。

 相手 : そうですかー・・・えーと・・・明日とかなら大丈夫ですか?

おっさん: はい、ぜんぜん問題ありません(ニートなので)

 相手 : あ、いや、もしあれだった今日とかってどうですか?

おっさん: 僕としては早いほうがいいので、今日でも大丈夫ですよ(ニートなので)



・・・というわけで、電話をした当日に面接をすることがきまった。が、 おっさんもこの件に関してはそんなに驚いていない、というか最善の形になった。というか、この時点で採用されるだろうことをほぼ確信していた。



20時


とてもデリヘルの事務所が入っているとは思えない瀟洒な門構えのそのビルの入口に立っていた。あまりにも煌びやかな作りではあるが、それがかえって古めかしくも見えてしまう奇妙な建物だ。デリヘルの事務所どころか、普通の会社が入っていること自体も疑問に思える佇まいではあったが、伝えられた住所は間違いなくここである。

不安に思いつつエレベーターにのり、 伝えられた部屋号室まで行く。


ピンポーン



・・・はい



カメラ付きのインターホンから低い声で返事があった。


おっさん :すいません、本日面接のお約束をさせていただいているものなんですが・・・



 と、話しているうちにドアが開き、中へ招き入れられた。



およそ10畳ほどの空間の中央に、、デュアルディスプレイのPCと、複数台の電話機が無造作に置かれた向かい合わせの会議机を囲むように、3人の男が座っていた。


社長 : あー・・・どうもどうも。まぁ座ってよ。




小さな事務用の


2012年12月15日土曜日

過去との決着

Fを辞めてもうすぐ一年になるが、今でもあの会社のことを考える。

あの時のことをいまさら考えてどうなるものでもない。が、思考が勝手にそちらの方へ向いていく。するとイライラが止まらない。収まらない怒りで眠れなくなる。

でも、怒りという感情が湧き上がるということは、あの会社を辞めたことはしょうがないということではなく、あの会社に原因があったから辞めたということにしたいのだと思う。

もういい加減過去にとらわれてイライラしたくない。だからここで一度整理をして、過去のこととしてしっかりと清算しなければいけない。もう以前のように甘えることはできないのだから。



まず、自分があの会社で何をしたかったのか、どうなりたかったのか。
そう、役員になりたかったのだ。

でも、あの会社は営業会社だ。徹頭徹尾モノを売る会社だ。しかし、俺が営業をすることができなかった。

あの会社では、営業経験だけで言えば社長についで2番目に長い。無駄に長い。
しかし、布団屋の時からフレッツの営業、防犯カメラ、HP、電子ブレーカー、何をとっても営業で活躍することはなかった。毎度毎度、新しい商材に挑戦するたびに、「あの商材はダメだったが、今度はいけるかもしれない」と考えていどんできたが、ついに営業職で大成することはなかった。

あの会社をやめる直前、イーモバイルのブース販売              事業を立ち上げるので、それを任せるという話が回ってきた。全くの新しい事業だから、またほかの会社に潜入してそのノウハウを盗んで、1から販売方法を構築するというものだった。

しかし、その時の俺にそんなことをするモチベーションはなかった。

その時の俺は部下の昇進を妬み、それを隠してきた会社上層部のやり方に強烈な不満と不信感を持っていたのだ。

その状況で、自分にとって最も苦手意識の強い営業の仕事を一から構築して、自らも営業活動をし、組織化していくということをとても了承する気にはなれなかった。

なにより、営業をするのが嫌だった。獲得をする自信が欠片もなかった。

当時の専務にそのことを話はしたが、「それは営業じゃないから」という訳のわからない返答が帰ってくるだけで、なんの解決にもならなかった。営業じゃないとはどういうことなのか、獲得ができなくてもいいのかとつっこみたくなったが、しなかった。

・・・この調子で書き続けていたらいつ終わるかわからない。
結局、自分の